前橋地方裁判所 平成5年(行ウ)3号 判決 1998年5月29日
群馬県甘楽郡甘楽町大字白倉一番地
原告
有限会社神宮製材所
右代表者代表取締役
神宮敬
右訴訟代理人弁護士
合田勝義
群馬県富岡市富岡二七四一番一号
被告
富岡税務署長 櫛田隆治
右指定代理人
中垣内健治
同
松原行宏
同
立花宣男
同
山畑昌子
同
吉田修
同
瀧野嘉昭
同
小口守義
同
江口育夫
主文
一 被告が平成三年七月三〇日付けでした原告の昭和六二年四月一日から昭和六三年三月三一日までの事業年度以後の法人税の青色申告承認取消処分を取消す。
二 被告が平成三年七月三一日付けでした原告の昭和六二年四月一日から昭和六三年三月三一日までの事業年度の法人税についての更正処分(ただし、平成五年六月二四日付けの国税不服審判所長の裁決により一部取り消された後のもの)のうち所得金額八二五万八九六七円、納付すべき税額二四二万八八〇〇円を超える部分及び重加算税賦課決定処分(ただし、右裁決により一部取り消された後のもの)を取り消す。
三 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第一原告の請求
主文同旨
第二事案の概要及び証拠
一 争いのない事実等(証拠により容易に認定できる事実を含み、当該証拠を括弧内に掲記する。)
1 原告及び本件関係者
(一) 原告は、製材業、建設業及び不動産取引業を営む有限会社であり、神宮敬(以下「原告代表者」という。)が代表取締役に、その弟の神宮脩多(以下「脩多」という。)が取締役にそれぞれ就任しており、また、原告代表者は、神宮建設株式会社(本店所在地・群馬県高崎市江木町一二七六番地八、以下「神宮建設」という。)の代表取締役にも就任している。(甲九三の4、乙一、七九)
(二) 株式会社鴻菱興業(本店所在地・宇都宮市中央一丁目一〇番一四号、以下「鴻菱興業」という。)は、昭和六〇年、群馬県富岡市及び安中市にまたがる地区内にゴルフ場(開場後の名称は富士カントリー富岡倶楽部、以下「本件ゴルフ場」という。)の開発を計画し、同年七月、本件ゴルフ場の用地買収担当者として、不動産業者であった白石光一(以下「白石」という。)及び田島昭夫(以下「田島」という。)を採用した。(乙五六、八七、証人白石、同田島)
(三) 鴻菱興業は、昭和六〇年一二月一九日、本件ゴルフ場の開発とその完成後の経営法人として鴻富ゴルフ興業株式会社(本店所在地・群馬県富岡市藤木一〇二八番地二、以下「鴻富ゴルフ興業」という。)を設立したが、昭和六一年三月、フジパングループの子会社となり、その経営下に移された。(乙六六ないし七〇、八七、証人田島)
(四) 日本国土開発株式会社(本社所在地・東京都港区赤坂四丁目九番九号、以下「日本国土開発」という。)は、鴻富ゴルフ興業から本件ゴルフ場の造成工事等の施工及び用地買収業務を請け負い、用地買収業務については、すでにこれを手掛けていた鴻菱興業に委託し、鴻菱興業が行う右業務を指揮、監督した。鴻菱興業は、富岡事務所を設け、その責任者として当時営業部長であった斎藤孝夫(以下「斎藤」という。)を当て、日本国土開発は、鴻菱興業の右事務所近くに、本件ゴルフ場開発の現地事務所として富岡作業所を開設し、東京支店の事務部副部長であった横井今朝男(以下「横井」という。)を常駐させた。(甲二八、乙五七の1、2、五九、七一、八七、証人白石、同横井、同斎藤、同田島)
2 原告及び神宮建設の土地譲渡と原告の代替地の取得
(一) 本件ゴルフ場開発予定地には、原告の所有していた別紙第二物件目録2記載の土地(以下「本件譲渡乙土地」という。)及び神宮建設が所有していた同目録1記載の土地(以下「本件譲渡甲土地」といい、本件譲渡乙土地と併せて「本件譲渡土地」という。)が含まれていたところ、本件譲渡土地は、いずれも鴻富ゴルフ興業に買収され、昭和六二年(以下、月日のみを記載する場合は昭和六二年を指すものとする。)一一月二四日に、一〇月二六日売買を原因として鴻富ゴルフ興業へ所有権移転登記がなされた。(甲七、九、二七、六〇)
(二) 原告は、本件譲渡土地を譲渡するに際し、その代替地として、勅使河原鉄建株式会社(本店所在地・群馬県富岡市一ノ宮二四八番地三、以下「勅使河原鉄建」という。)の所有していた別紙第一物件目録1ないし4記載の各土地(以下、同目録1記載の土地を「本件取得A土地」、同目録2記載の土地を「本件取得B土地」、同目録3記載の土地を「本件取得C土地」、同目録4記載の土地を「本件取得D土地」という。)、阿久津茂生(以下「阿久津」という。)の所有していた同目録5記載の土地(以下「本件取得E土地」という。)、及び戸塚定義(以下「戸塚」という。)の所有していた同目録6及び7記載の各土地(以下、同目録6記載の土地を「本件取得E土地」、同目録7記載の土地を「本件取得F土地」といい、本件取得AないしF土地を併せて「本件取得土地」という。)を取得し、本件取得A及びB土地については、一〇月三〇日に、同月二六日売買を原因として原告名義に、本件取得C及びD土地については、一一月四日に、一〇月三一日売買を原因として脩多名義に(なお、この所有権移転登記は、一一月一六日に、錯誤により抹消登記がなされ、昭和六三年一月二〇日に、同日売買を原因として再び脩多名義に所有権移転登記がなされた。)、本件取得E土地については、昭和六三年五月一八日に、同年四月二〇日売買を原因として原告名義に、本件取得F土地については、同年五月三一日に、同年三月二四日売買を原因として侑多名義に、本件取得G土地については、昭和六三年五月三一日に、同月一九日売買を原因として原告名義にそれぞれ所有権移転登記がなされた。(甲一一ないし一五、二〇ないし二六)
3 本件課税処分等の経緯
(一) 原告は、青色申告の承認を受けていたところ、昭和六二年四月一日から昭和六三年三月三一日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税について、昭和六三年五月三一日、所得金額を八二五万八九六七円、納付すべき税額を二四二万八八〇〇円として確定申告した。
(二) 被告は、本件事業年度の法人税確定申告につき、原告が鴻菱興業から無償で取得した土地価格を収益に計上せず、また、鴻菱興業から同土地に係るものとして得た造成代金を収益に計上しないで事実を隠ぺいして申告をしたことを理由に、平成三年七月三〇日付けで本件事業年度以後の法人税の青色申告の承認を取り消す処分(以下「本件青色申告承認取消処分」という。)をした。
(三) 被告は、原告に対し、平成三年七月三一日付けで、所得金額を九六二五万八九六七円、法人税額を三九四六万八三六〇円、納付すべき法人税額を三九三八万八八〇〇円とする更正(以下「本件更正処分」という。)、及び重加算税一二九三万六〇〇〇円の賦課決定(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
(四) その後の本件青色申告承認取消処分、本件更正処分及び本件賦課決定処分(以下、これらを併せて「本件各処分」という。)に対する原告の不服申立ての経緯は、次のとおりである。
(1) 平成三年八月二八日 被告に対する異議申立て
(2) 同年一一月二八日 異議棄却決定
(3) 同年一二月二八日 国税不服審判所長に対する審査請求
(4) 平成五年六月二四日 本件青色申告承認取消処分につき棄却し、本件更正処分及び本件賦課決定処分につき、その一部を取り消し、所得金額を六六二五万八九六七円、納付すべき税額を二六七八万八八〇〇円、重加算税額を八五二万六〇〇〇とする国税不服審判所長の裁決
二 争点
本件の争点は、本件各処分の適法性の根拠として被告の主張する事実の存否、即ち原告が協力金を含む現金五八〇〇万円を受領した上、本件取得土地を無償で取得したのか(それとも原告が本件取得土地の代金と本件譲渡土地及び同土地上の立木(以下、これらを併せて「本件譲渡土地等」という。)の代金の差額を支払って本件取得土地を取得したのか)であり、右争点についての双方の主張の要点は、次の三及び四項のとおりである。
三 本件各処分の根拠及び適法性に関する被告の主張
1 本件更正処分について
(一) 原告の本件事業年度に係る所得金額等
(1) 申告所得金額 八二五万八九六七円
(2) 受取協力金未計上額 四二〇三万〇三三六円
右は、原告が、本件譲渡土地を鴻富ゴルフ興業に譲渡するに際し、鴻富ゴルフ興業に代わって原告と本件譲渡土地等の譲渡取引の交渉を行った鴻菱興業から受領した協力金名下の四二〇三万〇三三六円の土地譲渡収入を収益に計上しなかった金額である。
原告が鴻菱興業から受領した現金は五八〇〇万円であるが、そのうち一五九六万九六六四円は本件譲渡土地等の代金であり、協力金はその余の四二〇三万〇三三六円である(以下、右協力金を「本件協力金」という。)。
原告は、鴻富ゴルフ興業等との間で五八〇〇万円を受領する旨合意して作成した乙第一八号証の承諾書(以下「本件承諾書」という。)に基づいて、一〇月二六日、原告代表者宅において、白石及び田島と同行した横井が持参した現金五八〇〇万円を受領したものである。
(3) 土地代金受贈益末計上額 五二二〇万円
右は、原告が、本件譲渡土地を鴻富ゴルフ興業に譲渡するに際し、代替地として原告が勅使河原鉄建から取得した本件取得AないしD土地の代金五〇〇〇万円、阿久津から取得した本件取得E土地の代金一〇〇万円、及び戸塚から取得した本件取得F及びG土地の代金一二〇万円の合計五二二〇万円を鴻菱興業が負担したことにより、右代金の支払義務を免れ、実質的には本件取得土地の取得代金相当額の経済的利益を鴻菱興業から贈与を受けたにもかかわらず、その受贈益を収益に計上しなかった金額である。
(4) 所得金額 一億〇二四八万九三〇三円
原告の本件事業年度の所得金額は、右(1)ないし(3)の合計額である。
(二) 本件更正処分の適法性
原告の本件事業年度の所得金額は、右のとおり一億〇二四八万九三〇三円であり、右に対する法人税額は、昭和六三年法律第一〇九号による改正前の法人税法六六条一項及び二項により、右所得金額のうち八〇〇万円以下の部分については一〇〇分の三〇の税率を、右八〇〇万円を超える部分の金額九四四八万九〇〇〇円(国税通則法一一八条一項の規定により一〇〇〇円未満の端数切捨て後のもの)については一〇〇分の四二の税率をそれぞれ乗じて計算した四二〇八万五三八〇円から、法人税法六八条一項の規定に基づき、利子・配当等の収入についてすでに源泉徴収されていた税額七万九五一二円を控除した後の四二〇〇万五八〇〇円(国税通則法一一九一項の規定により一〇〇円未満の端数切捨て後のもの)であるところ、右金額は本件更正処分による原告の納付すべき法人税額(裁決により一部取消し後の額)二六七八万八八〇〇円を上回るから、本件更正処分は適法である。
2 本件賦課決定処分について
原告は、前記のとおり、鴻菱興業から受領した本件協力金を収益の額に計上していないばかりか、本件取得土地を無償で取得したのに、これを三二二〇万円で購入したものと仮装して、本件取得土地の取得代金相当額である五二二〇万円を収益に計上しなかったものであり、右事実は、課税標準又は税額等の計算の基礎となるべき事実を隠ぺいし又は仮装して、その隠ぺいし又は仮装したところに基づき法人税の確定申告書を提出したことにほかならない。
したがって、国税通則法六八条一項により原告に課されるべき重加算税の額は、被告が本訴において主張する納付すべき法人税額四二〇〇万五八〇〇円から、確定申告に係る法人税額二四二万八八〇〇円を控除した後の税額三九五七万円(国税通則法一一八条三項の規定により一万円未満の端数切捨て後のもの)に、一〇〇分の三五の割合を乗じて算出した金額(一三八四万九五〇〇円)となるところ、右金額は本件賦課決定に係る重加算税の額(八五二万六〇〇〇円)を上回るから、本件賦課決定処分は適法である。
3 本件青色申告承認取消処分について
法人税法一二七条一項三号は、青色申告の承認を受けている法人が、その事業年度に係る帳簿書類に取引の全部又は一部を隠ぺいし又は仮装して記載し、その記載事項の全体についてその真実性を疑うに足りる相当の理由がある場合には、当該事業年度においてその承認を取り消すことができる旨定めているところ、原告は、前記のとおり、本件譲渡土地等の譲渡において、その代金一五九六万九六六四円のほかに本件協力金を受領したにもかかわらず、右代金のみを受領した旨仮装して記帳し、また、取得した本件取得土地について、その取得代金を自己が負担していないにもかかわらず、自己が負担した旨仮装して記帳した。右事実は、同条項同号の青色申告の承認の取消事由に該当する。
よって、本件青色申告承認取消処分は適法である。
四 被告の主張に対する原告の反論
原告は、本件協力金を含む現金五八〇〇万円を受領していない。
原告は、鴻菱興業との間で、鴻菱興業が原告から本件譲渡土地を本件ゴルフ場用地として買収するに際して、本件取得土地を鴻菱興業において原告に売り渡す旨、及び本件取得土地の譲受代金を合計三三〇〇万円(本件取得AないしD土地を三〇〇〇万円、本件取得E土地を一〇〇万円、本件取得F及びG土地を二〇〇万円とする。)、本件譲渡土地等の譲渡代金を合計一五九六万九六六四円とする旨を合意し、その差額一七〇三万〇三三六円(以下「本件差額金」という。)を鴻菱興業に支払って本件取得土地を取得した。
なお、被告は、勅使河原鉄建の所有していた本件取得AないしD土地の売買代金は五〇〇〇万円であったとし、原告には右土地につき右代金相当額の受贈益がある旨主張するが、右代金額は鴻菱興業が勅使河原鉄建から取得する際のものであり、原告の取得価格とは関係がない。
よって、原告が本件協力金及び本件受増益を収益として計上しなかったとしてした被告の本件各処分は、いずれもその根拠となるべき事実を欠くから違法であり、取消しを免れない。
五 証拠
証拠関係は本件記録中の証拠関係目録記載のとおりであるから、これを引用する。
第三争点に対する判断
一 原告が本件協力金を含む現金五八〇〇万円を受領したかについて
1 被告は、原告及び神宮建設代表取締役神宮敬作成名義の本件承諾書に記された合意に基づいて、一〇月二六日、白石、横井及び田島が原告代表者宅の応接間に臨み、横井が持ち運んだ現金五八〇〇万円を原告代表者に交付したと主張する。
2 本件承諾書について
(一) 本件承諾書には、売買及び代替地取得契約の条件として(1)ないし(3)の三つの条項が記載されており、その(3)項(以下「本件条項」という。)には「造成等諸条件の合意をしたのでその代価として貴社(鴻富ゴルフ興業及び日本国土開発)は、当社(原告及び神宮建設)宛全金額として金五阡八百萬円也を決済することとする」と記載されているところ、原告は、本件承諾書の署名が原告代表者のものであることは認めるものの、同人が右署名をした当時、本件承諾書の原本には本件条項が記載されていなかったと主張し、原告代表者もこれに沿い、本件条項が記載されていなかったか、少なくとも金額部分の記載がなかったとの供述をしている。
(二) 本件承諾書は、鴻富ゴルフ興業の税務調査の際に、同社がその事務所に保管していた原告に対する五八〇〇万円の支払証明書(乙二〇)に写しの状態で添付されていたところを発見されたものであるが、鴻富ゴルフ興業は、右写しを白石から入手したものであり(以上につき乙五九、証人斎藤、弁論の全趣旨)、本件承諾書の各条項の配列状況からすれば、本件条項の三行部分、あるいは「金五阡八百萬円」との部分が欠落しているままでは不自然なものとなり、原告代表者が署名した当時、本件条項や金額の記載がなかったという原告代表者の供述もそのままには受け取りにくい。
(三) しかしながら、本件承諾書及び本件条項については、次の点を指摘することができる。
(1) 本件承諾書の各条項はいずれも白石が記載したものであるが、白石は、本件条項が記載された状態で原告代表者が署名したと証言するものの、本件条項あるいは同条項中の金額部分は、他の条項よりも後に記載したとも証言している。
(2) 本件条項には、五八〇〇万円を支払う理由として「造成等諸条件の合意」が挙げられているところ、造成が問題となっていた勅使河原鉄建の所有に係る本件取得AないしD土地は、当時、桜井建材が無償で土砂の採取を行い、すでにほぼ平らな状態となっており(乙六一、証人勅使河原正己)、ことさら造成を挙げるのは不自然ともいえる。
(3) 本件協力金を含む五八〇〇万円が原告に支払わされたとされる一〇月二六日当時、すでに日本国土開発と鴻菱興業との間で決められていた業務委託費の支払いは、その限度枠二五億円に満る状況にあったところ(証人横井)、本件協力金は高額で、原告の理不尽な要求ともいえるものであったにもかかわらず、日本国土開発及び鴻菱興業において、稟議書等、その支出について協議をしたことを窺わせる証拠がない。
(4) 右(3)に加えて、白石や田島が行う鴻菱興業の用地買収業務を指揮・監督していた日本国土開発の横井でさえ、当時、本件承諾書を見たことがなかった。(乙五七の1、証人横井)
(5) 更に、本件承諾書は、前記のとおり写しの状態で鴻富ゴルフ興業の事務所で発見されたものであるところ、本件承諾書の形式からすれば、鴻富ゴルフ興業も本件承諾書の名宛人であり、その内容からしても、同社において原告らに約束させた一面もあるのであるから、その原本を所持して当然と考えられるのに、写ししか所持していなかったことは不自然ともいえる上、右原本の所在につき、白石は斎藤に渡したと供述するが、斎藤は受領していないと供述し、原本の所在について、いずれも明確な供述をせず、本件証拠としてその原本の提出がされない現状においては、右写しの原本が存在したものか、あるいはこれを肯定したとしても、右写しが原本と同一のものであったか否かにつき疑念を挟む余地が多分にある。
(四) 右(三)に指摘した点にかんがみると、前記(二)の点を考慮しても原告代表者が本件承諾書の原本に署名した当時、本件条項(少なくとも金額)が記載されていたことについては疑問を拭えず、本件承諾書の写しのみをもってしては、原告が鴻菱興業から五八〇〇万円の支払を受ける旨の合意が存在していたものと認定することはできない。
3 原告代表者が現金五八〇〇万円を受領したことを窺わせる他の証拠について
(一) 証拠(乙二一ないし二六)によれば、鴻菱興業は、一〇月二六日、現金五八〇〇万円を用意した事実が認められる。
そして、右現金が原告代表者に交付されたとの被告主張に沿うものとして、乙第一九号証(鴻菱興業の振替伝票)、第二〇号証(鴻菱興業の支払証明)、第五七号証の1(横井の聴取書)及び2(横井作成の「神宮製材及び神宮建設の土地取引ついて」と題する書面)、第五八号証(白石の聴取書)、第五九及び第六〇号証(斎藤の聴取書)、第八六ないし八八号証(田島の聴取書及び調査経過報告書)があり、これらによれば、右現金が原告代表者に交付されたことが窺われないでもない。
(二) しかしながら、鴻菱興業から原告代表者に対して現金五八〇〇万円が支払われたことと整合しないか、あるいはこれを前提とすると不自然となる次の事実も認められる。
(1) 証拠(甲一ないし六、一六、二九、三一、原告代表者[第一、二回])によれば、原告代表者は、現金五八〇〇万円を受領したとされる一〇月二六日に、群馬銀行甘楽町支店の普通預金口座から当座預金口座に一〇〇〇万円を振替入金した上で、同支店を支払場所とする額面一〇〇〇万円の小切手一通を、また、同日、足利銀行富岡支店の普通預金口座から当座預金口座に七〇〇〇万円を振替入金した上で、同支店を支払場所とする額面七〇三万〇三三六円の小切手一通をそれぞれ用意し、これらを翌二七日に現金化した事実が認められ、仮に原告が一〇月二六日に五八〇〇万円もの現金を受領する予定であったとするならば、何ゆえ同日に合計一七〇三万〇三三六円もの支払いの準備をしたのか不自然である。
(2) また、仮に原告に現金五八〇〇万円が支払われたとするならば、鴻菱興業は、何ゆえその領収書を受け取っていないのか、すなわち、鴻菱興業は、何ゆえその領収書を受け取っていないのか、すなわち、鴻菱興業の内部では、原告に対して五八〇〇万円を支払った旨の乙第一九号証(鴻菱興業の振替伝票)及び第二〇号証(鴻菱興業の支払証明)が作成されながら、何ゆえ領収書の交付を受けていないのか不自然である。
この点、乙第二〇号証(鴻菱興業の支払証明)を作成した鴻菱興業の斎藤は、右現金五八〇〇万円の支払いについて、日本国土開発の横井が間違いなく払ったと言うので信用した旨、及び原告から領収書を交付してもらうべきであり、後日、原告代表者宅に赴いて領収書を交付してもらおうとしたところ、原告代表者とは会えなかったため、これを他の者に伝えたが、結局、領収書をもらうことができなかった旨証言している。しかしながら、領収書もなしに支払ったとの言を信じたというのも理解し難いし、領収書についても、いつ、誰に対して、どのような説明をしてその交付を求めたのか具体性を欠いており、また、通常なら自ら用意していく領収書用紙さえ持参しないで原告代表者に赴いたなどと供述していることにもかんがみると、真摯に領収書を徴求しようとした様子が窺われず、右供述部分は、そのままには採用することができない。
(3) 更に、仮に鴻菱興業が一〇月二六日に本件譲渡土地等の代金を含む現金五八〇〇万円を原告に支払ったとするならば、本件ゴルフ場の起工式が一〇月二八日と迫っており(乙五八、証人白石)、また、本件譲渡土地が本件ゴルフ場にとって重要な位置を占める土地であった(乙九七の1、2)ことから、鴻菱興業ないし鴻富ゴルフ興業において直ちに本件譲渡土地の所有権移転登記を行うのが合理的であると考えられるところ(なお、原告及び神宮建設側が用意すべき登記関係書類は、いずれも同月二六日までに用意されていた。甲九二の1ないし3、九三の1ないし5)、それは約一か月後の一一月二四日に行われ、本件譲渡土地の代替地とされた本件取得A及びB土地がいずれも一〇月二六日売買を原因として同月三〇日に、同じく本件取得C及びD土地がいずれも同月三一日売買を原因として一一月四日に、それぞれ速やかに所有権移転登記が行われていることと対比して不自然である(なお、本件取得C及びD土地については、同月一六日に錯誤により抹消され、昭和六三年一月二〇日に再び登記されている。)。
(三) 次に、現金五八〇〇万円が原告代表者宅の応接間で交付された際、同所に臨んだとされる白石、横井及び田島の前掲の聴取書等の供述について検討するに、以下に指摘する同人らの証言内容の不自然さ等にかんがみると、右供述は採用することができない。
(1) 横井及び田島は、いずれも現金五八〇〇万円が目の前にテーブルの上に置かれていたと供述していながら、その現金五八〇〇万円が原告代表者に交付されたところは見ていない旨の不自然な証言をし、白石においては、右現金が原告代表者に交付されたと供述するものの、誰が、どのようにして交付したのかまったく記憶がないなどと極めて曖昧な証言に終始している。
(2) 田島の証言によれば、現金をジュラルミンケースに入れて地権者のところへ運び、それを交付した相手は原告代表者だけであったとし、原告代表者に対する現金五八〇〇万円の支払いが極めて異例なものであったと認められるところ、白石については、平成六年四月一三日作成の聴取書(乙五八)においても平成七年三月一〇日の第七回口頭弁論期日及び同年五月一二日の第八回口頭弁論期日に実施され証人尋問においても、ジュラルミンケースを使って現金を運んだことに関してまったく供述していない。また、横井においては、平成六年一〇月一二日作成の「神宮製材及び神宮建設の土地取引について」と題する書面(乙五七の2)及び同月二五日作成の聴取書(乙五七の1)ではジュラルミンケースで現金を運んだ旨を述べていなかったが、平成七年九月二九日の第一〇回口頭弁論期日に実施された証人尋問においてこれを供述するに至り、田島においては、横井の証人尋問の前である平成六年四月一〇日に作成された聴取書(乙八六)ではジュラルミンケースで現金を運んだ旨を一切述べていなかったが、横井の証人尋問の後である平成八年六月一一日に作成された聴取書(乙八七)及び平成八年八月三〇日の第一四回口頭弁論期日及び同年一〇月一一日の第一五回口頭弁論期日に実施された証人尋問においてこれを供述するに至った。右供述経過は、いずれも不自然さを否めない。そして、白石を含めた右三名の供述経過に徴すると、ジュラルミンケースで現金を運搬した事実は横井の証人尋問において初めて証拠関係に登場し、田島の証言は、横井の証言を機に、それと平仄を揃えようとしたものとの疑念を抱かざるを得ない。
(3) 横井と田島の各証言を比較すると、現金交付の際、原告代表者宅の応接間で着席した位置、応接間から退席した者の順序、退席の際にジュラルミンケースを持ち帰った者などについて供述内容にくい違いがある。
(4) 証拠(甲一六四、乙八九、原告代表者[第二回])によれば、井上司法書士事務所の従業員勝田則之は、右現金の授受が行われたとする一〇月二六日に原告代表者宅の応接間に臨み、少なくとも本件取得A及びB土地について所有権移転登記申請手続をするため、同所でその登記関係書類の確認作業をした事実が認められる。しかしながら、横井においては、同日、井上司法書士事務所の従業員が原告代表者宅を訪れ、登記関係書類の確認をした事実を認めるものの、右従業員は原告代表者宅の玄関先にとどまり、現金の授受が行われたとされる応接間には入らなかったと証言し、白石及び田島においては、右勝田が原告代表者宅に来訪していた事実を否定する旨証言をし、いずれも事実に反するか相互に矛盾しており、その信用性に疑問がある。
(四) 更に、白石及び田島は、鴻菱興業から成功報酬として地上げ額の三パーセントの支払を受ける約束があったところ、地上げ額が二〇億円弱であり、右報酬額は六〇〇〇万円弱(各三〇〇〇万円弱)となるのに、いずれもその支払いを受けていないし、支払いを請求した節もない(証人白石、同田島)。これに加え、白石の供述が一貫せず、極めて曖昧であるなど、前記判示の点を考慮すれば、鴻菱興業と原告ら地権者との間で地上げ交渉を担当し、本件承諾書の作成にも深く関与した白石において、本件承諾書の本件条項部分の記載に何らかの作為を加えた可能性も否定できない。
4 以上のとおり検討してみると、原告代表者が現金五八〇〇万円を受領したことを窺わせる前掲3(一)の各証拠は、いずれも採用し難い。
5 被告は、右現金の授受が行われた一〇月二六日から平成元年二月二〇日までの約一年四か月間に、原告の帳簿上の資産並びに原告及び原告代表者の関係者名義の資産が合計四九九五万五九二六円も増加していると指摘して、原告代表者が現金五八〇〇万円を受領した事実が裏付けられると主張するので、更に検討する。
まず、右四九九五万円余のうち、本件譲渡土地等の代金分の一五九六万九六六四円を原告の資産の増加と主張する点については、それが原告の帳簿上の数額を捉えて資産の増加というにすぎず、受領した現金五八〇〇万円による財産の取得を主張するものでないから、直ちに五八〇〇万円の受領の裏付けとなるとは解し難い。
次に、原告代表者の関係者名義の資産の増加として主張する三三九八万六二六二円については、現金五八〇〇万円が授受されたとされる一〇月二六日から相当隔たった時期における財産の取得を捉えたものが含まれている上、資産の増加を基礎づけるものとして個々の財産の取得は、その取得資金の調達が右現金以外からはあり得ないことを前提にしてこそ意味を持つものであるところ、被告は、原告代表者及びその関係その関係者の年間の貯蓄可能性を論議するにとどまり、同人らが右財産の取得以前から有する資産の内容や、それを運用して取得した可能性を否定する主張、立証をしない。そして、右財産の取得が右現金以外から調達された可能性を示す証拠(甲一六八ないし一九一、原告代表者[第二回])もあることなどを踏まえると、前記資産の増加がいまだ現金五八〇〇万円の受領を裏付けるものとはいい難い。
結局、原告代表者が現金五八〇〇万円を受領した事実を認めるに足りる証拠はないといわざるを得ない。
二 原告が本件取得土地を無償で取得したかについて
1 被告は、鴻菱興業が本件取得土地の代金を負担することにより、原告がこれを無償で取得したとして、原告には右土地代金の合計額である五二二〇万円相当の受贈益が発生したと主張するものであるが、その主たる根拠は、原告は、鴻菱興業から本件譲渡土地等の代金のみならず本件協力金をも含んだ現金五八〇〇万円を受領したのであり、これとは逆の金銭の支払い、すなわち、原告が鴻菱興業に本件取得土地と本件譲渡土地等の代金の差額を支払うことはあり得ないという点にある。
2 しかしながら、既に前記一において判示したとおり、原告が鴻菱興業から現金五八〇〇万円を受領した事実は認めるに至らない。
そして、以下に判示するとおり、原告の主張する本件差額金の支払いの事実については、これを認めることができる。
(一) 原告は、鴻菱興業との間で、本件譲渡土地等の代金を合計一五九六万九六六四円とし、本件取得土地のそれを合計三三〇〇万円として、その差額である本件差額金を鴻菱興業に支払って本件取得土地を取得したと主張するものであるが、本件差額金の支払いの経過について次のとおり主張し、原告代表者もこれに沿う供述をしている(原告代表者[第二回])。
(1) 原告代表者と白石との間で、昭和六二年一〇月ころ、原告が本件取得土地を取得することを条件に本件譲渡土地等を譲渡する旨合意するに至り、原告代表者は本件承諾書(ただし、本件条項の記載されていないもの)に署名した。そして、同月二六日を契約日とし、同日、原告が本件差額金を支払うことが約束された。
(2) 原告は、右同日、本件差額金を支払うため、群馬銀行甘楽町支店を支払場所とする額面一〇〇〇万円の小切手と、足利銀行富岡支店を支払場所とする額面七〇三万〇三三六円の小切手を用意したほか、あらかじめ白石から交付されていた本件譲渡土地等の契約書類にも原告及び神宮建設の記名押印を済ませていた。
(3) ところが、右同日、原告代表者宅を訪れた白石から、いまだ本件取得EないしG土地について取得の見込みがついていない旨の報告を受けたため、原告代表者は、本件差額金の支払い及び本件譲渡土地等の契約書類の交付を留保し、本件取得AないしD土地に関する契約書類の交換をするにとどめた。その際、白石は、明日までに本件取得EないしG土地について取得の見込みをつけるので、小切手を現金化しておくよう原告代表者に要請した。
(4) 翌二七日、原告は、右白石の要請に従って小切手を現金化し、本件差額金の支払いを準備していたが、原告代表者宅を再度訪れた白石から、本件取得EないしG土地につき、なお取得の見込みがついていない旨の報告を受けたため、本件差額金の支払い及び本件譲渡土地等の契約書類の交付を拒んだ。しかし、白石から「明日起工式なので、どうしても契約書だけでももらいたい。差額金のうち一〇〇〇万円だけは支払ってほしい。」と懇請されたため、原告代表者は、本件譲渡土地の登記関係書類の交付は留保しつつ、契約書及び現金一〇〇〇万円のみを白石に交付した。
(5) その後、白石から本件取得EないしG土地の取得の見込みがついたとの報告を受けたため、一一月九日ころ、原告は、その余の本件差額金を支払い、本件譲渡土地の登記関係書類を交付した。
(二) そこで、以上の原告の主張及びこれに沿う原告代表者の供述について検討する。
(1) 右(一)(2)のうち、一〇月二六日、原告が本件差額金と同額の小切手を用意していた点、及び同(4)のうち、翌二七日、原告が右小切手を現金化していた点については、前記一3(二)(1)に判示したとおり、証拠上明らかに認定できる事実と整合している。また、右(一)(3)ないし(5)の事実を前提にすれば、前記一3(二)(3)において指摘した点、すなわち本件譲渡土地の所有権移転登記が本件取得AないしD土地のそれよりも遅れた理由について整合的に理解することができるし、右各土地の所有権移転登記手続きを行った井上司法書士事務所の受付カード(甲一六四ないし一六七)にみる受付順序とも整合して理解することができる。
してみると、本件差額金の支払経過に関する原告代表者の供述は、具体性があり、かつ、客観的事実にも符合する自然なものであって、信用性が高いというべきである。
(2) この点、被告は、原告代表者の供述が変遷していることを捉えて信用性がないと主張するが、それは、原告代表者が、当初、記憶を十分に喚起することがでないまま、原告の帳簿や売買契約書の記載に沿って供述をしていたところ、その後、他の証拠によって記憶が喚起され、供述を訂正するに至ったとみることもできるし、むしろ、審査請求の時点における原告の主張をみる限り、本件取得土地及び本件譲渡土地等の各代金額や本件差額金の支払いの準備等の事実について本訴訟におけるそれと同様であり、一貫した主張を展開していたものともいえる(乙九五、九六)。
(三) ところで、被告は、鴻菱興業と勅使河原鉄建との間で、本件取得AないしD土地の代金が合計五〇〇〇万円(うち二〇〇〇万円は勅使河原鉄建の裏金)と定められ、右金額が勅使河原鉄建に支払われているとして、本件取得AないしD土地に係る原告の受贈益は五〇〇〇万円であると主張するものであるところ、それは、原告にとっても右土地の代金額は五〇〇〇万円であるとの主張も含んでおり、前記認定と抵触するものとも考えられるから、検討を加えておく。
(1) 確かに証拠(乙三一、三二、三三の1、2、三四ないし三八、三九の1、2、四〇、四一、四二の1、2、四三、五八、六一ないし六三)及び弁論の全趣旨によれば、鴻菱興業と勅使河原鉄建の間で、本件取得AないしD土地を代金を五〇〇〇万円とし、うち二〇〇〇万円は勅使河原鉄建の裏金とする旨合意され、白石及び斎藤により、八月二〇日、小切手で一〇〇〇万円が、九月五日、七日市新生活センターにおいて、現金で二〇〇〇万円と小切手で二〇〇〇万円の合計四〇〇〇万円がそれぞれ勅使河原鉄建に支払われた事実が認められる。
(2) そして、白石、勅使河原正己、清水英敏の各聴取書(乙五八、六一ないし六三)によれば、七日市新生活センターにおいて右四〇〇〇万円が支払われた際、原告代表者もそれに立ち会っていたため、鴻菱興業と勅使河原鉄建の間でなされた右代金額及び裏金に関する合意は、原告代表者においても了解するところとなったことが窺われる。
(3) しかしながら、以下に判示する点に徴すれば、右各聴取書の内容はいずれも採用することができず、結局、右四〇〇〇万円が支払われた際、原告代表者が立ち会っていた事実は認められないし、原告代表者が鴻菱興業と勅使河原鉄建の間で定められた本件取得AないしD土地の代金額を認識していたと認めるに足りる証拠はないといわざるを得ない。
ア 原告代表者は、右立会いの事実を一貫して否定しているところ(原告代表者[第一、二回])、右四〇〇〇万円の支払いに臨んだ斎藤もこれを否定している(乙六〇、証人斎藤)。
イ また、斉藤は、鴻菱興業が勅使河原鉄建から本件取得AないしD土地を取得する時点では、それが原告へ提供する代替地となるか確定しておらず、代替地とならない場合には、鴻菱興業において分譲することも可能であるとして取得したものと証言し、原告代表者が鴻菱興業と勅使河原鉄建の間の土地代金の支払いに立ち会う必然性のないことを明らかにしている。
ウ 勅使河原正己は、その証人尋問において、同人の聴取書(乙六一、六二)での供述内容を大きく翻し、代金五〇〇〇万円のうち二〇〇〇万円を裏金とする相談は、白石との間のものであり、原告代表者には一切話していない旨、また、九月五日、七日市新生活センターで原告代表者と初めて会ったとしながら、原告代表者とは特別な挨拶もなく、話もしなかったとし、結局、本件取得AないしD土地の売却の相手方は白石であると認識していたと証言するに至っている。
エ 勅使河原鉄建の取締役で総務部長である清水英敏は、その聴取書(乙六三)において、鴻菱興業から四〇〇〇万円の支払を受けた際、勅使河原鉄建側で本件取得AないしD土地の売買契約書を用意したが、原告代表者がその調印を拒んだとし、用意した売買契約書は、その写しが保管されていると供述しているところ、原告側で契約書の調印を拒む理由は見当たらず(被告主張のように無償で取得できるものであったなら、なおさら拒む理由がない。)、不自然であるのに対し、前記イで斎藤が証言するところに従えば、当時、右土地が原告に提供される代替地となるか確定していなかったため、契約書の買主欄に署名押印等がなされなかったものとみることができる。
オ 白石の聴取書(乙五八)及び同人の証言については、先に現金五八〇〇〇万円の授受に関して判示したとおり、およそ信用性がない。
(4) そうすると、本件取得AないしD土地の代金について、勅使河原鉄建と鴻菱興業の間では、裏金分二〇〇〇万円を含めた五〇〇〇万円と合意されたが、それとは無関係に、原告と鴻菱興業の間で三〇〇〇万円と定められたとみることができ、被告の主張する本項冒頭部分の事実は前記認定を何ら妨げるものではないというべきである。
(四) なお、本件差額金の算出根拠となる本件取得土地についての各売買契約書(甲一一ないし一五)上の代金額の合計三二二〇万円と原告の主張する代金額の合計三三〇〇万円との間には八〇万円の開きがある点が問題となるが、これは、戸塚の所有していた本件取得F及びG土地について、その売買契約書(甲一一、一二)及び同土地に係る代金の領収書(乙四五)に表された代金額が一二〇万円であるのに対し、原告が実際の売買代金は二〇〇〇万円であったと主張することにより生じた齟齬である。
これについて原告代表者は、白石から聞いた戸塚の話として、売買契約では本件取得F及びG土地の代金を合計一二〇万円とするが、実際には二〇〇万円で売買するとのことであったため、そのとおりの金額を売買代金としたと供述し(原告代表者[第一回])、右齟齬が生じる理由を説明している。
そこで、これについて検討するに、戸塚の聴取書(乙六四)によれば、戸塚との売買契約の締結、同人への代金の支払い等はすべて白石によって行われ、原告代表者は一切関与していないことが認められるところ、前記(三)(3)ウで判示した証人勅使河原正己の証言によれば、白石は、原告の関知しない鴻菱興業と勅使河原鉄建との間の本件取得AないしD土地の売買に際し、その事実の代金が五〇〇〇万円であったのに三〇〇〇万円と仮装し、残り二〇〇〇万円を勅使河原鉄建の裏金とする操作を行っていたものであり、これに徴すると、本件取得F及びG土地の売買に際しても、原告が関知しないことを奇貨として、鴻菱興業が戸塚に支払う代金と原告が鴻菱興業に支払うべき代金の差額を裏金として捻出した可能性を否定できないし、敢えて原告が売買契約書上の代金額と異なる代金額を主張し、かつ、それが審査請求や本訴訟において一貫して主張されているものであること(乙九五、九六)にかんがみるならば、この点に関する原告代表者の供述も信用できるというべきである。
三 原告の本件事業年度の帳簿書類の記載について
1 本件青色申告承認取消処分は、原告が鴻菱興業から無償で取得した土地の取得代金相当額を収益に計上せず、また、鴻菱興業から右土地に係る造成代金(協力金)として得た収益を計上せずに事実を隠ぺいして申告したことを処分の基因となる事実(法人税法一二七条二項の通知に係る理由附記)としてなされたものであるところ、以上に認定したとおり、右処分の基因となる事実は認められない。
2 この点、原告の本件事業年度に係る総勘定元帳(乙五四)及び現金出納帳(乙五三の6)には、<1>本件差額金の支払いによって本件取得土地を取得したことを示す記載がなく、本件譲渡土地等の売却と本件取得土地の購入がそれぞれ各別に行われた旨記載されていること、また、<2>戸塚の所有していた本件取得F及びG土地について、原告の真実の所得代金が二〇〇万円であったのに一二〇万円であった旨の記載がなされており、これらが取引の全部又は一部を隠ぺいし又は仮装する記載(同条一項三号)に当たるのではないかとの問題もあるが、<1>については、その記載を全体として評価した場合、いまだ取引の全部又は一部を隠ぺいし又は仮装するものと評するのは相当でないし、<2>については、鴻菱興業が戸塚に支払った右土地の代金が一二〇万円であったと認められること(甲一〇、一二、乙四五、六四)、被告も右土地に係る原告の受贈益を一二〇万円と主張していたこと、これらに加えて、附記に係る処分理由が存在したとは認められない本件において、被告が<2>の記載を捉えて取引の全部又は一部を隠ぺいし又は仮装する記載であると主張することは、法人税法一二七条二項が処分の基因となる事実及びそれが同条一項各号のいずれに該当するかを附記するよう税務署長に義務づけた趣旨、すなわち税務署長の判断の慎重と公正妥当を担保してその恣意を抑制し、また、取消しの理由を処分の相手方に知らせて、その不服申立てに便宜を与えようとした趣旨に反する結果となることにかんがみれば、<2>の記載があることをもってしては、本件青色申告承認取消処分の適法性を基礎づけられないというべきである。
第四結論
以上のとおり、本件更正処分及び本件賦課決定処分は、その根拠となる原告の本件協力金の受領及び本件取得土地の無償取得の事実が認められず、また、本件青色申告承認取消処分については、法人税法一二七条一項三号の取消事由を認めることができないから、いずれも違法であって取消しを免れない。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 田村洋三 裁判官板垣千里は転補につき、裁判官後藤充隆は退官につき、いずれも署名押印することができない。裁判長裁判官 田村洋三)
別紙
第一物件目録
1 所在 富岡市桑原字立野
地番 七〇三番一五
地目 山林
面積 五六六九平方メートル
2 所在 富岡市桑原字立野
地番 七〇三番一六
地目 山林
面積 三八四三平方メートル
3 所在 富岡市桑原字立野
地番 七〇三番三
地目 山林
面積 五二一平方メートル
4 所在 富岡市桑原字立野
地番 七〇三番八
地目 山林
面積 一〇五平方メートル
5 所在 富岡市桑原字立野
地番 六九〇番
地目 畑
面積 三一四平方メートル
6 所在 富岡市桑原字立野
地番 六九五番一
地目 山林
面積 五四四平方メートル
7 所在 富岡市桑原字立野
地番 六七〇番一
地目 畑
面積 八九平方メートル
以上
別紙
第二物件目録
1 所在 富岡市藤木字大鳥
地番 三九八番
地目 山林
面積 四三五二平方メートル
2 所在 富岡市藤木字大鳥
地番 四三一番一
地目 山林
面積 七八二〇平方メートル
以上